借金には時効があり、一定の条件を満たすと返済の義務がなくなります。
しかし、ただ踏み倒すだけで時効を成立させるのはほぼ不可能です。
本記事では、借金の時効が成立する条件や、時効を成立させるために必要な援用という手続きを詳しく解説します。
時効の成立ができなかった際の債務負担を軽減する解決策も紹介するので、現在の状況を好転させる糸口が見つかります。
Contents
借金の時効が成立するのは5年または10年
借金の時効は正式には「消滅時効」といい、最後の返済から5年または10年が経過すると、以降は返済の義務がなくなる可能性があります。
借金の時効は民法で規定されており、2020年4月の改訂前後によって年数に違いがあります。
| 2020年4月以前 | 2020年4月以降 | |
|---|---|---|
| 金融機関・貸金業者 | 5年 | 5年 |
| 個人(友人・家族など) 非営利的な機関 |
10年 |
参照:民法|e-Gov法令検索
2020年4月以降の借り入れについては、誰から借りたかにかかわらず、時効が成立するのは5年経過後です。
ただし2020年4月以前に個人や非営利的な機関からお金を借りた場合は、改正前の民法の規定により10年が時効成立のタイミングになります。
時効は最後の返済期日から起算する
時効のカウントを開始するタイミングは、原則として返済期日からです。
消滅時効は民法166条で以下のように規定されており、いずれか早い方が適用されます。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき
引用元:民法|e-Gov法令検索
例えば金融機関や貸金業者からお金を借りている場合、契約書によって返済期日が明記されているため、債権者は権利行使できる旨を知っているとみなされます。
よって上記条文の前者が適用され、借金の時効は返済期日から5年になるのです。
なおカードローンのように毎月返済を行うケースでは、最後の返済期日から起算します。
2020年4月以前の借金の時効が成立するまでの期間は債権者によって異なる
2020年4月以前にお金を借りている場合、借りた相手が商法上の商人(営利目的で商売をする者)であるかどうかによって、時効成立までの期間が変わります。
債権者が商人であるか、またそれぞれの時効成立までの期間を以下の表にまとめました。
| 債権者 | 時効成立までの期間 | |
|---|---|---|
| 商人 | ・貸金業者(個人営業を含む) ・銀行 |
5年 |
| 商人でない | ・信用金庫 ・住宅金融支援機構(住宅ローン) ・個人 |
10年 |
債権者が商人であるかどうかで期間が変わるのは、2020年の民法改正前では、時効について民法と商法で規定があったためです。
民法改正後に伴い、商法の該当条文が削除されたため、現在はどの債権者であっても5年で時効が成立します。
借金の時効が成立する4つの条件
借金の時効が成立するには、以下4つの条件を満たす必要があります。
- 最後の返済から5年が経過している
- 裁判や督促・催告をされていない
- 返済の意思を見せていない
- 援用をしている
「時効を成立させる」と聞くと、時が過ぎるのじっと待つイメージを持つかもしれません。
確かに時効を成立させるためにやってはいけないこともありますが、逆に自ら起こすべきアクションもあるので、詳しく見ていきましょう。
①最後の返済から5年が経過している
時効を成立させるための必須の条件は、最後の返済から5年が経過していることです。
例えば消費者金融に分割払いで途中まで返済をしていたものの、どこかのタイミングで滞ったとき、時効が成立するのは原則として最後の返済日から5年後です。
厳密にいえば、分割払いでは返済日が毎月到来するため、時効のカウントも返済日ごとに個別に進行します。
よって返済日ごとの金額が順番に消滅していくのが原則です。
しかしほとんどのケースでは、返済が滞ると残債を一括返済しなければならなくなる条項が、契約に盛り込まれています。
そのため分割払いでは、実質的に最後の返済日から5年経てばすべての残債について時効が成立すると考えて差し支えありません。
②裁判や督促・催告をされていない
時効を成立させる上で、裁判や督促、催告をされていない点は重要です。
債権者が上記のアクションを取ると、時効が一時的にストップしたり、リセットされたりするためです。
時効の進行が止まることを「時効の完成猶予」、時効のリセットを「時効の更新」と呼びます。
債権者が時効の成立を阻止するべく、裁判や督促などを起こすので、借金の踏み倒しは難しいのです。
時効の完成猶予や更新が発生する具体的なケースは後述します。
③返済の意思を見せていない
借金の時効を成立させるには、返済の意思を相手に見せてはいけません。
返済の意思とは「債務の存在や返済義務を認める」ことであり、これを「債務の承認」と呼びます。
債務の承認に該当する言動の一例は、以下の通りです。
- 支払いを待ってほしいとお願いする
- 残債の一部を支払う・支払いを申し出る
- 和解交渉をする
債務の承認を行うと時効の更新がされ、その時点からカウントがリセットされます。
重要なのは債務の存在を認めているかであるため、たとえ返済をしていなくても「少し待ってください」「後日払います」などの発言も債務の承認に該当します。
債権者もこのあたりは理解しているため「少額でもよいので払ってください」など、承認をさせるよう誘導してくるケースも珍しくありません。
借金を認めるような発言をしないことは、自分の言動で注意すべき点の一つです。
④援用をしている
借金の時効を成立させるには「時効が成立したから返済はしない」と債権者に意思表示をする「援用」の手続きが必要です。
その他の条件が満たされていても、援用をしない限り時効は成立しません。
援用の方法は口頭で伝える方法と、内容証明郵便を相手に送る方法があり、具体的なやり方は後述します。
なお時効が完成した後で、債務の承認を行うと援用ができなくなります。
時効を成立させるには、余計な発言はせず、条件がそろったら速やかに援用を行うのが重要です。
借金の時効が延長・リセットされるケース
以下のケースでは、時効の完成猶予や更新が発生します。
- 債権者が裁判を起こした
- 催告書や督促状が届いた
- 強制執行や仮押さえをされた
債権者は踏み倒しによる時効完成を阻止するべく、上記のアクションを取ってきます。
時効の完成猶予や更新が起こる条件を理解することは、時効が完成しているのかを調べる際にも役立つので、詳しく見ていきましょう。
債権者が裁判を起こした
債権者が裁判を起こすと、まずは裁判終了まで時効の完成が猶予されます。
さらに裁判の結果、返済の義務があるとの判決が下ると時効が更新され、この場合は時効完成までの期間が10年に延長されます。
裁判で債務が確定したにもかかわらず、そのまま支払いを無視すると財産を差し押えられ、強制的に支払いを実行される強制執行が行われる可能性があるのでかなり分が悪いです。
ただしいきなり裁判を起こされるケースはほとんどなく、始めは電話や郵便などで支払いの催促があります。
裁判を起こされるのは、催促を無視し続けたときです。
事を大きくしたくなければ、裁判を起こされる前に返済や債務整理などの対処をする必要があります。
催告書や支払督促が届いた
催告書が届くと、催告から6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
催告書とは、金融機関が私的に送る文書で、督促状よりも強く返済を求める文書です。
裁判を起こす手前の強い督促の意味合いがあり、そのまま放置すると支払督促が届いたり、裁判沙汰となったりする可能性があります。
支払督促とは、簡易裁判所を通じて行う法的な手続きです。
裁判所が申し立てを受けると「支払督促」が文書として送られ、2週間以内に異議申し立てや返済を行わなければ仮執行宣言(差し押えの準備)に進んでしまいます。
支払督促の手続中は時効の完成が猶予され、期限内に異議申し立てを行わなかった場合は時効の更新がされます。
支払督促が届いたら、弁護士に相談するなど速やかにアクションを行わないと、差し押えとなるリスクがあり危険です。
強制執行や仮差押えをされた
強制執行の手続中は時効の完成が猶予され、強制執行後に残債がある場合は、その部分の時効が更新されます。
強制執行とは、裁判で債務が確定したにもかかわらず、返済が行われなかった場合に、財産を差し押えて強制的に返済させる手続きです。
仮差押えとは、債務者による勝手な財産の処分を禁止する手続きで、終了から6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
差し押えをするには、まず裁判で勝利する必要があり、その後の手続きも含めると時間がかかります。
その間に財産を処分されると債権の回収が不可能となるため、仮差押えは債務者をけん制する意味合いで行われる手続きです。
借金の時効が成立するまでの流れ
弁護士に依頼して、借金の時効を成立させるまでの流れは以下の通りです。
- 弁護士に時効成立の相談をする
- 受任通知・債権調査
- 時効援用通知書を送付する
- 時効が成立する
時効の成立に必要な手続きは、自己破産をはじめとする債務整理と比べてシンプルで、無事時効が成立すれば信用情報機関から事故情報が消されるメリットもあります。
手順自体は単純なものの、時効が成立しているかを調べたり、援用通知書を適切に書いたりするには、プロの力を借りるのが無難です。
借金の時効を成立させる方法
借金の時効を成立させるのに必要なアクションは、大きく分けると時効の条件を満たしているかの調査と、援用の実施の2つです。
それぞれの手順の具体的なやり方を解説します。
借金が時効になっているか調べる
時効が成立しているかを調べる方法は、主に以下の3つです。
- 通知書を確認する
- 信用情報機関に照会する
- 支払督促や訴状が届いていないか確認する
通常、返済が滞っていると債権者から督促状や通知書が送られてきます。
そこには返済日が記載されているケースが多いため、最後の返済日から5年以上経過しているかどうかを確認しましょう。
信用情報機関とは、個人のローンやクレジットカードの申し込みや契約状況を記録している機関です。
信用情報機関に記録されている内容は照会が可能で、借り入れや返済の履歴を確認できます。
督促状や通知書は紛失したり、最新のものが残っていない可能性がありますが、信用情報機関に照会すれば現在の債務を正確に把握できます。
時効の完成猶予や更新が起こっていないかを確認するために、支払督促や訴状が届いていないかも確認しましょう。
ただし引越し後に住民票を移しておらず、書類を受け取っていない場合でも、裁判の手続きが進められている可能性もあります。
正確な情報を知るには、専門家に相談するのが確実です。
口頭または書面で援用を行う
援用の方法に関しては特段のルールはなく、口頭でも書面でも行ってよいとされています。
しかし口頭では「いった、いわない」のトラブルが懸念されるため、書面を内容証明郵便で送るのが一般的です。
内容証明郵便は差出日や文書の内容、差出人・受取人を証明する郵便のため、証拠として残すのに適しています。
援用通知書に決まったフォーマットはないものの、主に記載する内容は以下の通りです。
- 書類の作成日
- 債権者の名称・住所
- 差出人の住所・氏名
- 時効の援用を行う意思表示
- 債務を特定する情報
- 信用情報機関から事故情報を削除する旨の依頼
書面を送付する際は、相手用と自分用の控え、郵便局が保管する用の計3部を作成します。
援用通知書は自身でも作成が可能ですが、ミスなく行うには専門家に任せるのが無難です。
時効の成立を専門家に依頼する際の費用
時効の援用は、弁護士や司法書士、行政書士に依頼できます。
各専門家に依頼した際の費用相場は、以下の通りです。
- 弁護士:5〜10万円
- 司法書士:2〜8万円
- 行政書士:1〜3万円
弁護士は援用通知書の作成や送付だけでなく、債務の調査や債権者との交渉を含め一連の手続きを依頼できます。
司法書士も同様の内容を依頼できますが、1件あたりの債務が140万円以下の場合に限ります。
行政書士に依頼できるのは書類の作成や送付のみで、債務の調査や債権者との交渉は依頼できません。
より確実に問題を解決するには、弁護士または司法書士に相談するのがおすすめです。
借金を放置するリスク
時効を成立させるためには借金を放置する必要がありますが、以下のリスクに留意しましょう。
- 遅延損害金が膨れ上がる
- 信用情報機関に記録される
もし時効の成立ができなかったときは、返済が遅れた分に対する損害金が請求されるため、債務が大きくなる可能性があります。
信用情報機関に返済が遅れている旨が記録されると、今後のローンやクレジットカードの審査で不利に働くリスクもあります。
遅延損害金が膨れ上がる
遅延損害金とは、期日までに返済ができなかった場合に課されるペナルティです。
遅延の翌日から遅れた日数分発生し、消費者金融では年利20%が相場です。
遅延損害金と通常の利息は二重に課されるわけではなく、延滞が発生したら利息の代わりに遅延損害金が課されます。
ただし年利20%で遅延損害金が発生すると、5年の時効を待つ間に返済額は約2.5倍に膨れ上がります。
途中で時効の完成猶予や更新がされると、時効完成までの期間が延びて遅延損害金も増え続けるため、本当に返済を拒否するかは慎重な判断が必要です。
信用情報機関に記録される
返済が遅れると、信用情報機関に「長期延滞」の事実が記録されます。
この状態では、新たにローンやクレジットカードを契約する際に、審査に通らない確率が高くなります。
消費者金融やカード会社は、新規の申し込みがあった際、信用情報機関に申込者の信用情報を照会するためです。
長期延滞の記録は、延滞が解消されるまで残り続けるので、時効を待つ間はローンやクレジットカードが新たに契約できない状態が続きます。
借金の時効成立を待つ間は、成立できなかった場合の金銭的負担や、信用を用いた取引に不便が生じるリスクがあり、精神的負担も大きいでしょう。
借金の時効が成立しなかったときの解決策
もし借金の時効を成立させられなかったときは、以下3つの債務整理を行うのが現実的です。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
上記はいずれも債務負担を軽減するための手続きで、効果の大きさや生活への影響がそれぞれ異なります。
ただしどの手続きも、信用情報機関に事故情報が記録される点は共通のデメリットとして認識しておく必要があります。
各手続きの特徴を詳しく見ていきましょう。
任意整理
任意整理とは債権者と交渉し、主に将来の利息をカットしてもらう債務整理です。
手続後は、通常3~5年かけて元本を返済していきます。
任意整理のメリットとデメリットは、以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・財産を手放す必要がない ・交渉する債権者を選べる |
・個人再生や自己破産より減額効果が小さい ・元本を返済できる収入が必要 |
任意整理は3つの債務整理の中で最も生活への影響が少なく、交渉する債権者を選べるため、保証人に請求がいく恐れのある借入先は除外するといった柔軟な対応も可能です。
ただし借金の減額効果は最も小さく、元本を返済できるだけの安定した収入も必要です。
個人再生
個人再生は裁判所を通して行う手続きで、借金を現在の1/5から1/10に減額できる債務整理です。
減額後の債務の返済計画(再生計画)を作成し、原則は3年以内で残債の完済を目指します。
個人再生のメリットとデメリットは、以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・財産を手放す必要がない ・任意整理より減額効果が大きい |
・保証人に請求がいく可能性がある ・手続きに時間がかかる |
個人再生は債務を大きく減額できるにもかかわらず、原則として財産を手放す必要のない点が大きなメリットです。
住宅ローンは返済を続けられれば自宅を処分する必要はなく、車もローンを完済していれば残せます。
一方、任意整理と異なりすべての債権が対象となるため、家族や知人を保証人に設定している場合は減額分の請求がいき、迷惑がかかる可能性があります。
さらに個人再生は手続完了までにかかる期間が1年~1年半と、長丁場になる点も留意が必要です。
自己破産
自己破産は、必要最低限の家財や現金を除く財産を手放す代わりに、すべての債務を免責してもらう債務整理です。
自己破産のデメリットは原則として本人にのみ及び、家や車の処分によって家族に間接的に迷惑をかける可能性はありますが、直接の影響はありません。
自己破産のメリットとデメリットは、以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・原則すべての借金が免除される ・返済能力のない人が利用できる |
・財産が処分される ・税金や罰金は免除されない ・借金を作った理由によっては免責されない可能性がある |
自己破産は債務整理の中で最も強力な手続きですが、その代償として財産を差し出さなければなりません。
さらに税金や罰金は自己破産をしても支払う義務は残り、ギャンブルや返済ができないと分かっておきながら借りた場合は手続きが認められない可能性もあります。
反動も大きいですが、人生をやり直したい人にとってはおすすめの手段でもあります。
自分にはどの債務整理が向いており、どれくらい借金を減額できる見込みがあるかは、弁護士に相談しましょう。